フランス人上司から学んだこと1
渡仏してすぐのころ、夫のフランス人の上司が
私たち夫婦をディナーに誘ってくれた。
フランスでレストランでのディナーに誘われたら、
それは <大人だけ> を意味している。
なんせディナー開始時刻は21時以降だし、
そこからメニューを熟読し、前菜、メイン、デザートと食べれば
そこそこ時間がかかる。
まさに <大人の時間> なのだ。
でもその頃といえば、、、、
1歳3か月の末っ子は授乳中。
4歳の長男は引っ越しの影響か、
必ず「おかーさーん」と真夜中に私のベッドに移動してきて、
一緒に寝るようになっていた。
パリで大人同士のディナー。
うむ、間違いなく素敵そう。
そりゃ行きたい!
けれど・・・息子たちの行動を考えると行ける気がしない、
行ったとしても楽しめる気がしない、
というのが正直なところ。
乳幼児を預けられるベビーシッターさんもなかなか見つからず、
せっかくのお誘いだったが、
「シッターさんが見つかり次第ぜひ」と濁していた。
それでも、夫はたびたび上司から
「彼女(私)はどうしているのか?」
「ベビーシッターが見つかったか?」
と幾度となく聞かれていたらしい。
ついにしびれをきらした上司のHさんは、
もう子連れでよいから、と今度はビストロでのランチに誘ってくださった。
なんと当日は今お付き合いしている彼女を連れてくるという。
カップル文化である。
当日。
リュックを背負った快活で人懐っこい笑顔のHさんと、
知的な低い声と笑顔が魅力的な、明らかに大人な彼女。
おお、大人な2人だ♫
こういう出会いにわくわくした。
そして、ちょっと若作りの格好をした自分を後悔した。
パリに来て以来、歩いたことのないサンジェルマンデプレ界隈を
2人に案内されて歩く。
「ここが有名なカフェで政治家のたまり場だったの」
「ここのアイスは有名だから子どもたちと食べましょう」
「マルシェにチーズが出てるわね。試食してみたらいいわ」
至れり尽くせり。
石畳を3匹連れて歩く歩く。
子どもは大人に連れられて、だらだら歩くのが嫌いだが、
手に美味しいアイスがあれば不満はない。
街歩きを楽しんで、
壁中に小さな額縁がかけられた
なんとも味わい深いビストロに到着。
「実は昨日下見にきて、席も予約しておいたの」と彼女。
予約席はお店のコーナーにあたる部分で、
壁側半分がソファー席、手前半分が椅子席だった。
狭いけれどコージーな雰囲気に テンションも上がる。
これこれ!パリに来てこういうの待ってた!
ふと気づくと、
早くもわが子がソファー席に群がっている。
ここに決まってる~と言わんばかり。
いつも家族で外食時には、「ソファ席=こども」だったので、
彼らにとっては自然な行動だった。
子どもに続いて、
赤ちゃん連れの私がソファ席かな?と動こうとすると、
ん??おやおや??
目の前には、戸惑いの表情を浮かべる彼女。
「なんていうのかしら・・
席はどうするのがいいかってね」
なにやらHさんと相談している。
「ん??・・・・・・・ああ!」
彼らの言いたいことを察知した私は、
子どもたちに交渉、いや号令。
「君たち、ここに椅子を足すから端っこにいってくれる?」
「えーー!!ソファがいいのに!」
予想外にぶーぶー言いまくる子どもたち。
もうお絵かきセットも広げている。
一方で大人たちは座らずにこの動向を見守っている。
私は、静かに、ゆっくりと、
そして、これ以上ないほど目力を使って言った。
「今日は大人と大人でお話しするから
真ん中を大人のためにあけてちょうだい。
子どもコーナーはこの角につくるからね」
母親というのは、有無を言わさぬ空気を醸すのが得意である。
「ふああい」
そう。
もとはといえば、今日私たちを誘ってくれたのは、
私たち夫婦と話をしようと考えてくれたからなのだ。
子どもが座の中心で、
大人同士が散り散りに離れて座るなんて
ありえなかったのだろう。
子どもたちがテーブルの角に移動し、
私たちはペア同士、真向かいに座ることができた。
<大人の場所> の完成である。
子どもたちもあてがわれた
<こどもの場所> で遊びだした。
彼女も「これでいいわね!」と大いに納得した様子。
断わっておくが、
パリの人が子ども嫌いというわけではない。
子どもにもよく話しかけてくれる。
でも、ある場面では
フランスでは大人とこどもは空間を別にするのだ。
寝室しかり、食事しかり。
そして、大人同士が話しているときに、
子どもが割って入ることは歓迎されない。
フランスでの子どもの扱いは、
子ども大好きスペインとも、ちょっと違う。
何事も <子ども中心> で暮らしてきた私には、
子どものいる夫婦であっても、カップルでのディナーに誘われたこと、
また、この日のこの小さな「配席問題」は
<大人中心>のフランス文化を感じさせるのに十分な出来事だった。