3児のママが見たヨーロッパ

バルセロナ・ロンドン・パリで暮らしてきた3児の母からの欧州の風便り。長年の主婦生活で抱えていたいらいら&もやもやをコーチングがきっかけで払拭。あなたはあなたのままでいい。みんなちがってみんないい。一緒に「よい母親」より「幸せな母親」になりましょう。

パリが大嫌いなおじさんの話2

前回のお話はこちら↓

tomo-rainbow.hatenablog.com

 

この同じマンションのおじさんは、

会うたびに私に積極的に話しかけるようになった。

 

How are you?

Good,you?

 

大抵のひとはいいことしか言わないものなのだが、

このおじさんだけは、ここから愚痴が始まる。

 

 

パリの暑さへの愚痴。

パリの寒さへの愚痴。

マンションの設備への愚痴。

 

 

そして決まって最後の言葉は、そう。

 

 

"I HATE PARIS."

 

 

おじさんは笑ってByeと言うが、

私はパリ全否定の会話に圧倒されて、

苦笑いするしかない。

あっちがパリ生まれのフランス人なのにな。。

 

 

カリフォルニアのことを話すときは

いつも言葉がないようなうっとりした表情をして、

最高だよ、の一言。

 

 

そんなに嫌ならカリフォルニアに戻れないのかな。

てか、どうして昼間も夕方も家にいるんだろう。

まだ引退って歳じゃないよなあ・・

 

 

 

夏休みになって、

いつもと違う時間に子どもと外に出るようになった。

 

 

すると、

高齢のマダムを支えながら、

ゆっくりゆっくり歩くおじさんをよく見かけるようになった。

 

あ、エレベーターでも見かけたことがあるな。

お母さまだろうな。 

 

マダムは、背の高い彼に負けないくらい大柄で、

ゆったりとした麻のワンピースを着ていて、

挨拶をすると、

ゆっくりと顔を上げ、

グレーの目でやさしく笑顔をむけてくれる。

 

 

一人で歩くことはできないようで、

息子を頼りにしながら、

一歩一歩、いや、半歩半歩を休憩しながら進んでいた。

 

 

夏休みの間、彼らを本当によく見かけた。

2人で歩いていたり、

2人でベンチに座っていたり。

 

 

ときには、

おじさん1人がベンチに座って、

イヤホンを使って身振り手振りしながら

長電話をしていることもあった。

 

 

通りかかると、 

おじさんは顔なじみを見つけたような

嬉しそうな顔で手を振ってくれる。

 

 

1人で母親の世話をしているんだろうか。

 

 

 

そんなある日、

子ども3人連れてスーパーへ向かう途中に

またおじさんに会った。

 

 

ふざけ合う子どもたちを見ながら

彼は言った。

 

 

「君は3人の子どもの世話で大変だと思うけれど、

 それは希望がある労働だ。

 僕は毎日、孤独で希望のない労働をしているんだよ。

 ぼくの大切な母親だけどね。わかるだろ?」

 

 

 

母も、祖母を看取る前、

つくづくと言っていたことを思い出した。

 

 

「育児は希望がある。

 老人介護は大変よ。

 先が明るいわけじゃないから」

 

 

どちらも渦中にあるひとが言う

重い言葉だった。

 

 

つづく。