3児のママが見たヨーロッパ

バルセロナ・ロンドン・パリで暮らしてきた3児の母からの欧州の風便り。長年の主婦生活で抱えていたいらいら&もやもやをコーチングがきっかけで払拭。あなたはあなたのままでいい。みんなちがってみんないい。一緒に「よい母親」より「幸せな母親」になりましょう。

陽気な運転手ルディさんの涙

夏休み明けて新学期から、

こどもたちの通学バスの運転手さんが

ポルトガル人のルディさんに替わった。

 

学校が契約しているタクシー会社の運転手さんたちの顔ぶれは

大体把握しているが、彼のことは一度も見たことがなかった。

新しく契約した人なのかな?

 

若く髪型はいつもびしっと決まっている。

濃い眉毛と濃い目もと。

ディズニー映画のように大きな口でニカッ!っと笑う。

 

担当になって最初の朝に、

親と挨拶し握手するのは大抵誰もがすることだが、

彼の場合、親との握手は最初だけではなかった。

毎朝なのだ。

 

ボンジュールマダム! でがっしり握手。ニカッ!!

 

あくる日も 

 

ボンジュールマダム! でがっしり握手。ニカッ!!

 

来る日も来る日も 

 

ボンジュールマダム!ニカッ!!

 

どの親とも目と目を合わせてしっかり握手。

こんなことは初めてだった。

お子さんお預かりしますぜ!っていう気合がストレートに感じられる。

もしかしたら新しい職場ではりきっているのかな?

やる気にあふれ初々しい感じ。

なにより朝からすごく楽しそうなのだ。

 

これまで何人もの運転手さんに出会ってきたが、

こんなに楽しそうにしている人には初めて会った。

 

で、多分、彼が一番こどもに人気。

いつも私の腕の中で姉兄に手を振っている末っ子のことも、

スルーすることはない。

くすぐったり、変顔して笑わせようとしたり、とにかくいじる。

(スペイン暮らしを思い出した。ポルトガル出身と聞いて納得)

 

最初は無視していた末っ子も、

そのうち今日もくるな~♪と楽しみにするようになった。

出発前、ルディさんが運転席に乗り込むと、

窓を下ろしてくれるのを分かってて、

末っ子は両手をぶんぶん振って、盛大に見送るのが恒例だった。

 

乗っているこどもたちの名前も早々に覚え、

乗り込むときになんだかんだと話しかける。

 

そして おやおや??

そのうち子どもたちが、手にコテコテのお菓子を持って

バスから降りてくるようになった。

 

だれから??

え?ルディさん。お菓子の袋車置いてあるんだよ!

 

学校に持っていくスナックもヘルシーなものを、と言われているのに

運転手さんからバンバンふりまかれる魅惑のお菓子・・・苦笑

子ども同士でじゃんけんするのかなんなのか、

すごく盛り上がって降りてくる。

こんなに一体感のあるバスが今まであっただろうか。

 

また、用事があって学校へ親が直接迎えに行く場合は、

バスをキャンセルすることになるのだが、

ある雨の日に、学校からこどもたちと出ようとしたら、

まさに学校を出ようとしているバンから彼が大きく顔を出して、

「乗せてあげる!!」

と叫んでいる。

 

いやいや・・親は乗ってはいけないルールだし。

 

「いいよいいよ乗りなよ!」

 

いやいや。大丈夫!!

こっちはこっちで帰るからいいよ!

 

そんなやりとりを遠いながらして。

 

彼は多分そういうルールも知らないんだな。

でもいい人だった。

 

 

お別れは突然やってきた。

金曜日の朝にはいつものように

ボンジュールマダム!ニカッ!!だったのに、

夕方、バスから降りるなり、娘がものすごい勢いで言った。

 

「ルディさん今日で最後なんだって!」

 

見ると、続いて降りてきた韓国の女の子がしくしくと泣いている。

 

そして、こどもたちの荷物を下ろしたルディさんは目が真っ赤。

 

「ムシュー、あなたここを去るの?」

 

彼は嗚咽を抑えながら無言で何度もうなずいた。

 

「なにがあったの?」

 

「ポルトガルで問題があって・・・帰ることになった・・・」

 

何かを察することができた。

ご家族に何かがあったのだろう。

 

「さみしくなるわ」

 

真っ赤な目でいる彼の背中をさすってあげたかったが、

できなかった。

 

「ねえ、写真を撮りましょう」

 

その日、息子2人ともいなかったことが悔やまれた。

大好きだったから。

 

運転席に戻る前に、助手席から何やら取り出して、

私にくれた。

息子2人へのコテコテのチョコレートだった。

 

韓国のお母さんが

「パリへは戻るの?」と聞いた。

 

「ジュヌセパ」(わからない)と苦笑いした。

 

 

運転席に戻る背中に、何か言いたくなって、

 

 Good luck! 

 Stay strong!!

 

と声をかけた。

背中のまま大きく何度もうなずいた彼はこらえきれなくなり、

ハンドルに突っ伏して号泣していた。

 

 

詳しいことは分からない。

何かがあって、明日ポルトガルに帰らなければならなくなったってこと。

パリへ夢もあって来ていたのだろうな。

 

たった一か月だったが、

彼の憎めないピュアで陽気な仕事ぶりが思い出され、

もらい泣きしてしまう。

 

出会いと別れ。 

ルディさんのことを子どもたちは絶対忘れないだろう。

 

 

iPhoneの中のルディさんは

目がうさぎのように真っ赤だけれど、

いつものように思いっきりニカッ!!と笑っている。